第26章

私は男爵の口約束を得たが、ロイド子爵の行動力を過小評価していた。その朝、ロイド子爵は男爵の書斎に現れ、単刀直入に相続権と婚姻問題について話し始めた。

「オースティン、私の愛する甥よ。私とあなたの父の間にはかつて誤解があったかもしれないが、それは私の若気の至りだ。あなたはこの哀れな伯父を許してはくれないのか？」子爵は最初から弱みを見せ、老いた顔は特に哀れに見えた。

男爵は答えた。「私はあなたの意味がわかりません。私はあなたを責めたことはありません。」

子爵は続けた。「では、なぜフレイヤやローレンと結婚しようとしないのか？フレイヤが好きではないかもしれないが、少なくともローレンは嫌いではないと見受けられる。」

「子爵様……」男爵は説明しようとした。

「ローレンに持参金がないからか？しかし、愛する甥よ、あなたは将来私の爵位と荘園を継ぐことになる。これは不文律であり、昔からそうだ。あなたは私の娘を妻にすべきだ。」子爵はしゃべり続けた。

男爵はため息をついた。「申し訳ありませんが、従うことはできません。」

「まさか、あなたには好きな女性がいるのか？彼女には多くの持参金があるのか？ベイカー荘に勝る持参金などあるものか！」子爵は詰め寄った。

「私に好きな女性はいません、ただまだ結婚したくないので、お嬢様を待たせるつもりもありません。」子爵は焦って立ち上がり、「今結婚したくなくても構いません、まず婚約して、私の娘はあなたを待てます。」

男爵は首を振り、まず私を一瞥してから言った。「私はローレン・ロイド嬢に特別な感情はありませんので、彼女を妻にすることはできません。」

子爵は激怒した。おそらく彼はこれほどの反抗に遭ったことがなく、ましてや自分が懇願している状況で。彼の顔色は一瞬にして青ざめ、声の調子も甲高くなり、怒りを抑えているようだった。「あなたがどう言われるか分かっていますか？ 無情で不義理だと言われるでしょう！ 私たちの荘園を得ておきながら、私の娘を娶らず、私が死んだ後、妻や娘が路頭に迷うようにするつもりですか！」

男爵は腕を組み、明らかに不機嫌そうだった。子爵は部屋を行き来しながら、口々に非難した。「私はすでに尊厳を捨ててあなたに頼んでいる。ただ妻と娘の支えが欲しいだけなのに、なぜこれほど冷酷なのか！ もし私の息子が生きていれば、これほど卑屈に頼む必要はなかったのに！」

「子爵様」男爵は立ち上がり、真剣な眼差しで彼を見た。「私はロイド姓です。これは父から受け継いだ名前で、彼も祖父の息子でした。父が何も持たずにベイカー荘を去ったのは、法律で荘園の全てがあなたのものだと決まっていたからです。ですから、ベイカー荘があなたのものなのは、単にあなたがロイド姓で第一相続人だからに過ぎないことをお忘れなく。もしいつか荘園が私のものになれば、それは私がロイド姓で荘園の第一相続人だからです。」

「あなた！」子爵は言葉に詰まった。

男爵は軽く会釈し、礼儀正しく言った。「失礼いたしました、突然のことで申し訳ありません。私は利益のために義理を忘れるような者ではありません。今後いとこや叔母様に何かお役に立てることがあれば、喜んでお手伝いしますが、結婚の話はご遠慮ください。」

子爵は大きく鼻を鳴らし、沈黙のまま書斎を去った。

ロイド子爵は軽率な人間ではない。彼の態度がなぜ突然これほど強硬になったのか？ 理由は単純で、まさに「ジェラール伯爵の投資提案」だった。子爵は密かに調査させていたが、この投資は確かに並大抵のものではなく、王室も関与し、大小多くの貴族が参加していた。彼らは皆、この航路で大儲けできると言っていた。

この機会に大儲けできると考えた子爵は心に余裕ができ、以前の慎重さと優雅さを捨て、ずっと好きではなかった見知らぬ甥に強硬姿勢で臨んだが、結果は失望の極みだった。激怒した子爵は妻と娘たちの元へ向かった。

「彼は拒否した、またもや拒否した。これほどの屈辱を受けたことはない、よくもそんなことができたものだ！」子爵は罵りながら、二人の娘を睨んだ。「あなたたちは役立たずだ。彼があなたたちを好きになると保証したじゃないか！ それなのに彼は名誉を失ってもあなたたちを娶らないというのか！」

「あの…忌々しい猫背め！」フレイヤはハンカチを握りしめ、歯ぎしりしながら言った。「あんなものが何だっていうの！」

「ローレンは完全に予想外だった。男爵がきっと承諾すると思っていた。彼女は精一杯彼の機嫌を取ってきたのだから。それに貴族社会の暗黙のルールとして、評判を傷つけたくなければ、彼は彼女たちの誰かと結婚するはずだった。明らかに、彼はフレイヤが好きではなかったが、なぜ彼女まで拒否したのだろう？」

「もうここにいるのは我慢できない！」子爵は周りを睨みながら不平を言った。「この活気のない屋敷は墓場のようだ。宴会もなければ、歌や踊りもない、客も来ない、彼は変人だ！」

「しっ、そんな大声で。」子爵夫人は扇子を振りながら、小声で注意した。「行き場がなければ、私たちもここに来たりしないわ。銀行の借金の催促が厳しいのよ、他にどうしようもなかったの！」

「だったら彼を殺せ！」子爵は憎々しく言った。「私たちにこれほど冷酷なのだから、彼が死んでも当然だ！」

「殺す？そんな簡単にできると思う？」子爵夫人は首を振り、「あの人は抜け目ない人よ、そう簡単にはいかないわ。」

「ふん！」子爵は目を細め、口元に冷たい笑みを浮かべた。「どれほど抜け目なくても、全てを把握しているわけじゃあるまい。」

「どういうこと？何か考えがあるの？」子爵夫人が尋ねた。

子爵は笑ったが、直接は答えず：「あの品さえ手に入れれば、彼の命は私の掌中だ。よく考えなければ……そうだ、我々にはまだいくら残っている？」

子爵夫人はため息をついた：「もうお金なんてどこにもないわ。」

「なら使用人を解雇し、宝石を売り、売れるものは全て売れ。」子爵は言った。

「何をするつもり？」子爵夫人は興味深そうに聞いた。

子爵は口ひげを撫でながら、自信満々に言った。「金儲けの道を聞きつけた。王室の保証付きで、あの忌々しい小僧でさえ5万ポンドを投じている。こんな好機を逃すわけにはいかん。まずは金を稼ぎ、我々の差し迫った問題を解決しよう。」

「5万ポンド！」子爵夫人は扇を激しく振りながら驚いた。「そんな大金……」

「ふん！儲かると確信しているから、あれだけ投資したんだ。あの日、わざわざ私を避けたのは、私に知られたくなかったからだ。」子爵は得意げに言った。「忘れたのか？あの小僧の側近は、かつて我が領地の出身だったことを。」

「トーカーよ。」ローレンが口を挟んだ。

「そう、あの機転の利く奴だ。」子爵は笑いながら言った。「あの品を手に入れるには、彼の助けが必要だ。お前たちは何とかして彼を懐柔しろ。手段は問わん……」

ここ数日、異常なほど蒸し暑く、土の中の湿気がむっと立ち込め、夜でさえ少しも涼しくならない。男爵の世話を終えた後、私は厩舎の水槽で冷水浴をし、濡れた髪を乾かしながら使用人部屋へ向かった。

回廊の影に差し掛かった途端、誰かが驚いた声を上げ、私に飛びかかってきた。すると、柔らかな体が私に触れた。「あら、ごめんなさい、足を滑らせてしまって……大丈夫ですか？」優しい女の声が耳元で曖昧に響いた。

目を上げると、それはローレンの側で最も美しいメイドだった。この光景はあまりにも見覚えがあり、前世でも起こったことだ。「大丈夫です、あなたは？」私は彼女を押しのけて言った。

「ええ、大丈夫。」彼女は柔らかく答えた。「ではお休みなさい、もう遅いですから。」私は彼女をよけて歩き出した。

ところが彼女は大胆にも近寄り、柔らかな体を擦り寄せてきた。その意味は明らかだった。「ブラント様、私はずっとあなたに憧れていました。毎晩あなたのことを考えて……」と彼女は囁いた。

私は彼女が言い終わる前に押しのけ、冷たく言った。「ローレン・ロイド様は、自分のメイドがこんなにふしだらだとはご存じないでしょう？もし再びこんなことがあれば、主人に報告せざるを得ません。自重なさってください。」

メイドは呆然と私を見つめ、信じられないという表情を浮かべた。まるで口に入った肉を吐き出すとは思っていなかったようだ。私は拳を握りしめ、無言で階段を上った。もしこれが偶然でないなら、次はローレンが出てくる番だ。彼女はこの卑しい使用人ならメイド一人で片付くと思ったのかもしれないが、私はメイドに一切情けをかけなかったため、彼女は嫌々ながら自ら私を訪ねるしかなかった。前世も同じだった。残念ながら当時は何の疑いも持たず、あのメイドが本当に私に恋していたとさえ思っていた。

案の定、翌日の昼下がり、私は庭園の奥でローレンに出会った。彼女は偶然散歩していたようで、私が毎日通る道でばったり会った。

「トーカー。」彼女は甘く微笑んだ。

「ロイド様、ごきげんよう。」私は彼女に向かってお辞儀をした。

「こっちに来て、一緒に座りましょう。」彼女は自分の横の席を軽く叩いた。

私は慎重に彼女のそばに立ち、お辞儀をしながら言った。「何かご用でしょうか？いつでもご用命承ります。」

「あら、あなたって本当に堅物ね。」彼女は軽く文句を言いながら、「でも、そういうところが好きよ。」

「お褒めいただき光栄です。」私はそう答えた。

ローレンは花畑から一輪のバラを摘み、唇元に当てたが、突然表情が曇った。彼女は悲しげに「トーカー、聞いた？ああ、そうね、あなたはあの場にいたんだもの、もう知ってたわね。」と言った。

そう言いながら、彼女の涙は溢れ出し、大粒の涙が次々と落ちた。芝居よりも真実味があり、美しくて見る者を切なくさせた。

「……お嬢様、どうなさったのですか？どうかお悲しみにならないでください……」私は心配そうに尋ねた。

「どうして悲しまずにいられよう、男爵様が父上の願いを拒んだのよ。あんなに頭を下げてお願いしたのに……私が役立たずだからよ、私は厚かましい女のように彼を誘惑した、ああ、神様、私は何をしてしまったの、ただ父上と母上を悲しませたくなかっただけなのに、うう……」

私はハンカチを差し出したが、ローレンは突然私の胸に飛び込んできた。彼女はすすり泣きながら「どうすればいいの？どうすればいいの？」と囁いた。

私は特に何も感じず、ただ彼女の柔らかな胸が毎回のすすり泣きで私の体に軽く擦れるのを感じた。このお嬢様はいつも男をたぶらかし、火の中水の中でも駆けつけさせる方法を知っている。前世の私もこんな愚かな手に引っかかって敗れたのだ。

「ロイドお嬢様、どうかお悲しみにならないで。きっと方法はあります。」私は優しく慰めた。

「ないわ、うう……」彼女はしばらく泣いた後、優しい眼差しでぼんやりと私を見つめ、「トーカー、あなたは本当に優しい人ね、私の愚痴を聞いてくれるなんて。きっとたくさんの女性に好かれているでしょう、私じゃなければ……」

そう言い終えると、彼女は顔を真っ赤にして口を押さえ、失言に気づいたようで急に立ち上がり、黙ってスカートを握りしめて走り去った。

もちろん、彼女は「偶然落とした」ハンカチを忘れることはなかった。ハンカチは真っ白で何の印もなく、かけてある香水も普段使いのものとは違っており、彼女の香りと一致するものは何もなかった。

大雑把なフレイヤと比べ、ローレンの抜け目なさには感服するばかりだ。