第22章

「これは…これは…」私は慌てて立ち上がり、証拠隠滅ができないことを悟った。これらの本は私が勝手に持ってきたもので、男爵に許可を取っていなかった。

意外にも、男爵は私を責めなかった。彼は「自然哲学の数学的原理」を受け取り、驚いて言った。「わあ…君はこれが理解できるのか？本当に意外だ…」

「いえ、いえ」私は急いで手を振って否定した。「理解できません…ただ何となく見ていただけです」

男爵はソファに座り、笑いながら言った。「君が科学に興味を持つとは思わなかったね」正直、これらの本は私を眠らせるだけだった。

「もしわからないところがあれば、私に聞いてもいいよ」男爵はページをめくりながら、気軽に言った。

私は驚きながらも、心に妙な喜びが湧き上がった。慌てて彼の前に立ち、たどたどしく言った。「もちろん、もし教えてくださるなら、それは私の大きな光栄です…私はほとんど何も理解できません」

「わかった」男爵は興味深そうな表情を浮かべた。「どこがわからないか言ってみて、一緒に考えよう。実はこれらの本はとても難解で、私もよくわからないところがある」

「私……私には何も分かりません。」私はどもりながら言い、顔が一瞬で熱くなるのを感じた。男爵の前で愚かさを見せることほど、恥ずかしいことはなかった。

「それでは、形式運動と力の関係について話しましょう。ニュートン卿の理論によれば、数学の公式を用いて運動形式を分類し、乗算を通じて……」

「私……乗算ができません……」

男爵は一分間呆然とし、その後大笑いした。彼はその分厚い本を本棚に戻し、私に尋ねた。「まず算数を学びたいか？」

「もし教えてくださるなら。」私は顔を真っ赤にしながら言った。「私は頭が悪い……本当に申し訳ありません。」

「そうではない……」男爵は小声で呟いたが、私は聞き取れなかった。彼は本棚から小さな冊子を取り出し、基礎的な算数を教え始めた。

男爵の声は低く、説明は詳細で面白く、リラックスさせてくれた。それ以来、彼は毎日時間を割いて私に教えてくれた。彼は博識で、言葉遣いも優雅で、教えることに非常に忍耐強かった。私は知らず知らずのうちに彼に惹かれ、視線は常に彼を追い、心には言い表せない感情が湧き上がった。

私は非常に努力するようになり、時には深夜まで独学することさえあった。ただ彼の励ましの眼差しを得るためだけに。その後、彼は数学だけでなく、文学作品や音楽も紹介してくれた。私たちの交流時間はますます長くなり、時には彼が一日中私に詩や歴史を語り、公務さえも後回しにすることもあった。

夏の初め頃、私は突然気づいた。社交シーズン中、男爵はほとんど外出せず、客と会うこともほとんどなかった。彼の時間のほとんどは書斎で、より正確には私との時間に費やされていた。私たち二人きりの時間は他のどんな時よりも長く、朝から晩まで一緒に過ごし、話し、チェスをし、本を読んだ。

この日々はあっという間に過ぎ去った。この時間の中で、私は何も思い出せず、前世のことなど思い出すこともできず、ましてや復讐など考えられなかった。私はただ静かに男爵に向き合い、彼が語る珍しい話や、彼の笑い声に耳を傾けた。知らず知らずのうちに、私は彼の思想に溶け込んでいた。

このすべての始まりは、ただ私が彼とリリアンナの会話を知りたいと思ったからだった。社交シーズンが終わる前、男爵は再びジェラール伯爵の晩餐会に出席した。前回と同じく、リリアンナは男爵の側にいて、その慕わしげな表情が私の印象に残った。

「お父様、本当にお帰りになるのですか？マイルズ荘はお父様を手放せません。王都の華やかささえ、お父様をもう数日引き留めることはできないのでしょうか？」リリアンナは名残惜しそうに尋ねた。

「まあ、女は頭が単純だな。」ジェラール伯爵は笑いながら言った。「オースティンは大忙しで、何もかもが彼を必要としている。次回は直接彼の荘園に訪ねればいい。悲しむことはない。」

「もちろん、お父様、お嬢様とご一緒にお越しになるのを楽しみにしております。」男爵は軽く会釈して答えた。

「ところで……」伯爵は娘を避けて、小声で言った。「私は投資をしようと思っているのだが……」

二人が遠ざかるにつれ、リリアンナは私に向き、「あなたは男爵様の付き人？」と尋ねた。

私は急いでお辞儀をして答えた。「尊いジェラールお嬢様、私は男爵様の付き人トーカーでございます。」

「こんにちは、トーカーさん。」リリアンナは優しく微笑んだ。「突然で申し訳ないのですが、私的な質問をしたいのですが……」

「どうぞ、お答えできる限りお答えします。」私は答えた。

「これは言いにくいのですが、男爵様は……今、親しい女性のお友達はいらっしゃいますか？」彼女は顔を赤らめて尋ねた。

「それは……いいえ、私たちの男爵様には親しい女性はいらっしゃいません。」私は答えた。

「本当ですか？」リリアンナは喜びの表情を浮かべた。「ありがとう、トーカーさん。この答えは私をとても喜ばせます。」

「どういたしまして……」この晩餐会の後、私は男爵の着替えを手伝いながら、ためらいがちにこの件について話し始めた。

「ジェラール様が、男爵様に親しい女性の友人がいらっしゃるかと尋ねられ、私は勝手にいないと答えてしまいました……」と、私は小心翼翼に言った。男爵は気にしていない様子で、ただ頷いた。私はしばらく躊躇い、「大人、あなたは……ジェラール様がお好きですか？」と尋ねた。

私の質問は実は少し越権だった。使用人として、主人のそんなプライベートなことを質問する権利はない。だが、私はどうしてもその答えを知りたくて、男爵の私に対する寛容さに甘え、勇気を出して聞いた。心臓は高鳴り、彼の返答を待った。

男爵はようやく私の方に向き直り、笑って言った。「君は知っていると思ったよ。」私が呆然としていると、彼は続けた。「私は女性が好きではない。男性だけが好きだ。君は知っているだろう。」

「はい、ただ……あなたがたは楽しそうに話していて、とても気が合うようでしたので……」と、私は探りを入れるように言った。

「どうした？君は彼女が好きで、彼女が君の奥さんになってほしいのか？」男爵は突然尋ねた。

私はその質問に言葉を失い、しばらく沈黙した後、小さな声で言った。「私は男爵様が、あなたを愛する人を見つけ、そしてあなたもその人を好きになってくださることを願っています。」

男爵は突然黙り込んだ。彼は私を見つめ、ろうそくの光に照らされた目はひときわ明るく輝いていたが、一言も発しなかった。

「特にジェラール様を指しているわけではありません……」と、私は慌てて付け加えた。「ただ……彼女はあなたに非常に魅了されているようで、わざわざあなたについて尋ね、熱い視線を向けていましたので……」

男爵は低く笑い、首を振って言った。「いや、君は間違っている。彼女は私を愛していない。だが、私と結婚したいのは本当だ……」

私は困惑して彼を見た。男爵は説明した。「彼女は確かに多くの手間をかけて、私が王都で買った本を調べ、私の好きな話題を話した。残念ながら、彼女の知識は浅く、他人の考えをそのまま暗唱しているように聞こえた。彼女はそもそもこれらのものが好きではない。彼女の熱い視線について言えば、彼女が狙ったすべての対象が、この夢中のような視線を感じたことがあると断言できる。だが、彼女を信じるなら、それは愚かだ。」

その時、男爵はからかうように私を見て言った。「しかも、彼女は非常に計算高く、私の側近である君を使って、私への好意を伝えさせた。そして君は確かにそれを伝えた。こんな娘は本当に賢く、称賛に値する。」

私は目から鱗が落ちた。そう、あれは貴族の令嬢だ。どれほど無邪気で純粋に見えても、彼女の本当の姿は決して見えない。かつてのローレンがそれを証明していないだろうか？

男爵は続けた。「彼女の父親は浪費家で、経営の才もない。伯爵でありながら、借金で生活している。私はこの令嬢には持参金がほとんどないか、全くないと推測する。だからこそ、彼女は金持ちの貴族の中で、狩人のように標的を探し回っている。そして彼女の標的は私だけではないだろう。」

「彼女……彼女はそんなことをすべきではない。」私は怒りを込めて言った。

「なぜすべきではない？人々が富を追い求めるのは当然のことではないのか？」男爵は反問した。

「私は富を追求することを非難しません。だが、愛情の仮面を被って他人の感情を騙すのは、卑劣ではありませんか？」私は大声で言った。

男爵は笑った。「私ですら怒っていないのに、なぜ君はそんなに怒っているのか？もしかして『無邪気』なリリアンナに感情を騙されたから？親愛なるトーカー、貴族社会では、特に貴族の令嬢にとって、愛情で富を手に入れるのは日常茶飯事だ。だから君は怒る必要などない。」

私の怒りは抑えきれず、はっきりと言った。「なぜあなたは怒らないのですか？彼女はあなたを愛しているふりをして、ただお金目当てです。これでは詐欺師と何が違うのですか？もしそれだけならまだしも、もしあなたも彼女を愛してしまったら？あなたの愛情はどうなるのですか？誰がこの無駄になった感情に報いるのですか？」

男爵は黙ったまま、ただぼんやりと私を見ていた。しばらくして、彼は一歩前に出て、低い声で言った。「もし私も彼女を愛していたら、彼女が私の富と引き換えに愛情を使うことを気にしないかもしれない。」

私は大声で反論した。「富で買えるものは、決して愛ではない」

男爵が急に近づき、私の目をじっと見つめた。彼の息遣いさえ感じられるほどで、私は驚いて一歩後ずさった。

男爵は突然背を向け、ベッドの方へ歩きながら、冷たい声で言った。「退室してよろしい」

私は何も言わず、軽く会釈すると、男爵の部屋を後にした。

初夏の夜風が強く、私の心をかき乱すように吹き抜けた。真っ暗な廊下に一人立ち、胸の鼓動が早かった。

その時、男爵の部屋から音楽が聞こえてきた。休んでいるところではなかったか？退出時には蝋燭も消えていたのに……

ヴァイオリンの旋律はなおも優美に長く、寂しい夏の夜にゆっくりと流れ、さらに心の平静を失わせた。

この夜、私はほとんど一睡もできなかった。

翌日、マイルズ荘は予期せぬ客を迎えた。「ロイド子爵一家が馬車で大勢で到着したのだ。」