第15章

薪を割っているうちに、私の服は汗でびっしょりになった。涼しい天気なのに、私は全身汗だくだった。特に初春の陽が差し込むと、その熱さで余計に辛くなった。そこで、私は上着を脱ぎ、裸のままで薪割りを続けた。

その時、カタカタと馬の蹄の音が遠くから近づいてくるのが聞こえた。見上げると、朝から乗馬に出かけていた男爵が帰ってきたのだ。彼は馬をゆっくりと進ませ、ついに私のそばに止まった。私は薪の山の中に立ち、彼は高みから私を見下ろしていた。

「お帰りなさいませ、男爵様。」私は首の汗を拭きながら、堅苦しく挨拶した。男爵はすぐには返事をせず、ただ静かに私を見つめた。その視線は圧迫感に満ちており、私は居心地の悪さを感じた。もともと暑くて汗をかいていたのに、今は鳥肌が立つほどだった。

この気まずい空気が長く続き、彼がずっと黙っているのかと思った頃、男爵はようやく手綱を引いて立ち去ろうとした。私は勇気を出して、彼の行く手を阻んだ。「様、少しお話ししてもよろしいでしょうか？」私は上を見上げながら懇願した。

彼は一瞬戸惑ったようで、少し躊躇したが、結局馬から降りて私を見た。「言ってみろ、何だ？」私はどう切り出せばいいかわからず、たどたどしく説明した。「執事に客間から追い出されました。それは…私が様をお怒らせたからです。領地では人員削減中で、私も解雇されるかもしれません。ご存知のように、私には弟妹と母がおり、他に収入源がありません。どうか私の過ちをお許しください。領地を去るわけにはいかないのです…」

男爵はゆっくりと近づき、なんと一歩一歩私に迫ってきて、ついに目の前に立った。彼の吐息が私の顔にかかるのを感じ、私は思わず恥ずかしさのあまり一歩下がった。すると彼はまた一歩近づいてきた。

私はうつむき、彼の目を直視できなかった。その視線はよく知っていた。前世でも、彼はいつもこのような侵略的な目で私を見つめたものだ。そんな目で見られるたび、私はすぐに逃げ出したくなった。今も同じ気持ちだった。

私がひどく困惑していると、突然の接触で全身の筋肉がこわばった。その手が私の左胸に置かれているのを見て、私は一気に力が抜けるのを感じた。「聖母よ、真昼間から、彼は何をしているのだ？」

かなり時間が経ったというのに、白い手袋をしたその手はまだ私の左胸にあった。「いつまで触っているつもりですか？」と聞きたくなった。これは女性の柔らかい胸ではないのだから、触って何が楽しいのか？ しかし考えてみれば、この方は女性より男性がお好きなのかもしれない。男性の胸板の方がお気に召すのだろう。

彼のこの突然の行動に私はひどく当惑し、何歩か後退して彼との距離を取らざるを得なかった。どうしてこんな奇妙な状況になったのか理解できなかった。前世では、彼は私に対して一度も越権行為をしなかったのだ。私たちの間の親密な行為と言えば、あのパーティーで彼が酔って私に無理やりキスをした一度きりだった。

私が後退したことで彼は我に返ったようで、視線をそらし、少し傲慢そうに目を伏せた。彼は私に言った：「よかろう、お前が私を冒涜したことを許してやる。」私は泣きたいような笑いたいような気分で、心の中で思った：「ああ、私があなたを冒涜したことにしておきましょうよ、この厚かましいふしだら野郎。」

彼は馬の手綱を私に投げると、先に立って歩きながら、「私の馬を厩に戻しておけ」と命じた。私は彼が去るのを見送り、その後、そばにいた黒い馬を撫でた。「やあ、ローラ、久しぶりだね」。ローラは東方の大草原出身の優れた牝馬で、男爵が最も寵愛する馬だった。男爵が狩りで馬に乗るときは、いつもローラを連れていた。

ローラは鼻を鳴らし、私のような見知らぬ人間に触れられるのが好きではないようだった。昼頃、私が台所に入ると、誰かがやって来て、「ポッド執事が自分の部屋で待っている」と知らせた。私は緊張して執事室に向かったが、そこで驚くべき知らせを受けた。

「男爵様はあなたが世話をしたお礼として、あなたを自分の随身僕に任命なさいました。今日からあなたは男爵邸の人間です。男爵様がお出かけになる時は、一緒について行きなさい」。ポッドの口調は冷静で真剣だった。

「え？ 待っ……待ってください」。私は信じられないというように尋ねた。「私が男爵様と一緒に行くのですか？ これは男爵様のご意思ですか？」

「どうした？ 何か文句でもあるのか？」ポッドは眉をひそめ、それから言った。「文句があっても、あなたが拒否する立場ではない。子爵様もすでに承知している」。

なんてことだ、どうしてベイカー荘を離れることができようか？ 私は焦り始めた。これでは私の計画が台無しになってしまう。男爵に許しを請うたのは、ベイカー荘から追い出されないためだったのに、この状況でどうすればいいのか？

私が頭を抱えていると、居眠りしていた私に枕を差し出してくれる人が現れた。昼食を終えたばかりの時、「ローレン」の随身メイドも訪ねてきた。

「これはローレン・ロイド様からのお心遣いです。あなたの母親の生活が大変だとお聞きになりまして」。パメラは私に5ポンドもの大金を手渡した。これは私の1年分の給料に相当する金額で、実に気前の良い贈り物だった。

「ああ、なんと慈悲深いお方でしょう。どうか私の感謝をお伝えください。母はこのお金を見てきっと喜ぶでしょう」。私は興奮してそう言った。

ローレンの随身メイドであるパメラは、美しいというわけではなく、むしろ普通の容姿だった。彼女の黒髪は薄く、頭皮を隠すためにいつも髪をまとめていた。幸い、彼女は性格が優しく、非常に聡明だったので、ローレンも彼女を随身メイドに選んだのだろう。

「もう一つ、おめでとうございます。あなたには妹さんが二人いるとお聞きしましたが、ローレン・ロイド様は、執事に話してあなたの上の妹さんをベイカー荘のメイドとして迎え入れるとおっしゃっています。お嬢様のお考えは…随身としてお仕えさせるということです」。パメラは微笑みながら言った。

「それは素晴らしい！ お嬢様は本当に慈悲深いお方です。どう感謝すればいいかわかりません」。私は興奮のあまり言葉を失い、感謝の気持ちが顔に溢れた。パメラが満足そうに去るまで、私は笑顔を消さなかった。

私の家族に手を出そうだなんて？ 彼女はうまくいきすぎている。

その日の午後、私は執事に休暇を願い出て、家に帰った。

「本当？ 荘園のお嬢様が私を随身メイドにしてくれるって？」妹のジャスミンは興奮して私に尋ねた。

「ああ、準備をして、今日中に荘園に連れて行くよ」と私は答えた。

「じゃあ私も？ 私も行っていい？」末の妹グレイスが私にまとわりついて聞いた。

「騒ぐんじゃない、あなたはまだ9歳でしょうが。邪魔しないで」母も嬉しそうに、ジャスミンを引き寄せて満足げに言った。「よかった、急いであなたを嫁がせなくて本当によかった。もっと良い行き先が見つかったわね。二人の年俸を合わせると10ポンドにはなるでしょう」。

私がジャスミンを連れて出かける時、この浮かれていた少女はまた少し怖くなったようだった。彼女は自分の古いドレスをしっかりと握りしめ、心配そうな顔をしていた。「他に着るものがないの。こんなボロボロの服で笑われないかしら？」

「大丈夫、私が荘園に入った時は、靴すら持っていなくて、草履で入ったのを覚えてる？ だから心配しないで」と私は彼女を慰めた。

「ローレン・ロイド様ってどんな人？ お世話しやすい？ 私に厳しくしたりしない？」

「きっとあなたに優しくしてくれるよ」と私は確信を持って答えた。

「本当？」

「本当だよ」

「私はどうすればいいの？何をすればいいの？すごく怖いよ、お兄ちゃん。」ジャスミンは私を見上げ、怯えた子羊のように、不安な眼差しを浮かべていた。

「いい子だ、君は我が家で一番賢い女性だ。信じてくれ、ローレン・ロイドさんと少し一緒に過ごせば、どうすればいいかわかるよ。」私はそう言った。

ジャスミンはぼんやりと私を見つめ、顔の不安はまだ消えていなかった。私は微笑みながら、妹を抱きしめ、そっと耳元で囁いた。「私はロイド男爵の執事になる。ローレンは男爵と結婚したいから、君を側に置いて、私をコントロールしつつ男爵の情報を探ろうとしてる。わかった？」

ジャスミンはそれを聞くと、ゆっくりと笑い、目を丸くして言った。「お兄ちゃんの言うことは、彼女が私に合わせてくれるってことね。」

「前から言ってただろ、君は我が家で一番賢い女性だ。」私は彼女の額にキスした。

ジャスミンと私は前世の姿がとても似ていて、私たちは前向きで富を求めるタイプで、同時に計算高く、這い上がるためなら何でもする人間だった。ただ、ジャスミンは私より幸運で、彼女は「ローレン」を愛することは決してない。

「ローレンは私の家族を使って私を牽制しようとしたが、それは大きな間違いだ。彼女が私のために助手を探してくれるなら、拒む理由もない。いつも人が表にいて、私が影にいるからこそ、人は安心するんだろう？」

その日の午後、ジャスミンはローレンのお付きのメイドになり、私も出発の通知を受けた。

「明日の朝早く、男爵様と一緒に王都に戻る。君は新人だから、早く荷物をまとめておけ。」執事のカーン、30代半ばの男。前世では彼とあまり接点がなかった。当時は男爵の執事が私一人だったが、今は彼と私の二人だ。

「はい、先輩。もう準備は整っています。」

「ならば言っておくが、マイルズ荘は並みの場所じゃない。無礼な振る舞いは許さない。ベイカー荘の使用人とはいえ……」カーンの言葉には含みがあり、子爵一家の評判はすでに地に落ちているようだ。