第12章

ギャレット子爵は完全にフレイヤに夢中だった。ベイカー荘での日々、二人はいつも一緒で、乗馬、ピクニック、パーティー、狩猟と、この50代の紳士は青春を取り戻したかのようだった。すぐに、彼はフレイヤに求婚した。ある晩餐会で、彼は公衆の面前で彼女にプロポーズし、ロイド子爵の承諾を求めた。

フレイヤは恥ずかしそうにうなずき、ロイド子爵はすぐさま拍手で祝福した。ギャレットは非常に寛大で、フレイヤを娶るにあたり、ロイドが提供するわずかな持参金など気にせず、逆に高額な結納金を自ら支払った。これを見ると、彼はまるで女性を高値で買っているかのようだった。しかし否定できないのは、フレイヤの美貌は確かにそれだけの価値があり、少なくとも誰かが彼女のために大金を投じる価値があるということだ。

ロイド子爵は焦りに駆られていた。彼はできるだけ早くフレイヤを嫁がせたがっており、相手が年上のギャレットでも構わなかった。この縁談は彼に緊急に必要な現金をもたらし、財政の赤字を埋めることができる。すべてが順調に進んでいるように見え、あとはフレイヤが嫁ぐのを待つだけだった。

しかし、女中頭のラケリアは憂慮していた。特にフレイヤと子爵夫人が持参金について言い争っているのを耳にした時、彼女の不安はさらに強まった。

「私が嫁ぐ時はほとんど持参金もなかったのに、数人の使用人を連れて行くのもダメなの？」フレイヤは理不尽さを感じながら、憤慨した口調で反論した。

「誰を連れて行ってもいいけど、わざわざ男の使用人を連れて行くなんて、どのお嬢様が男の使用人を連れて嫁ぐの？」子爵夫人は娘の理不尽な要求を全く理解できなかった。

「この男たちには慣れているの。馬丁は私の一番のお気に入りの馬の世話をしてくれるし、人が変わったら馬はどうなるの？それに東洋の麺を作れるコックもいるし、バイユーもいるわ。彼の淹れるコーヒー以外は飲めないの」彼女は自説を曲げなかった。

「ダメなものはダメよ」子爵夫人は冷たく拒否した。

「もうギャレットと話をつけてあるわ。彼は承諾してくれたのに、なぜ母さんは反対するの？」フレイヤは少し興奮していた。

「結婚してからにしなさい。今はだめよ」子爵夫人は一歩も引かなかった。

フレイヤは仕方なく、不機嫌になってその場を去った。すると、ローレンが小声で言った。「母さん、姉さんはただ数人の使用人を連れて行きたいだけなんだから、連れて行かせてあげればいいじゃない」

子爵夫人はローレンを睨みつけた。「ダメよ、口を挟まないで」

無情にも拒否されたフレイヤは憤然として立ち去り、ドアを力任せに閉めた。

クリスマスが近づくと、私とローズは執事から新しい手袋を一組受け取った。執事は特に身だしなみに気をつけるよう注意し、この敏感な時期には特に気をつけるよう言った。今年のクリスマス舞踏会で、ベイカー荘は大いに力を入れていた。主に、高貴で裕福なギャレット子爵のために。彼らはこの盛大な舞踏会を通じて、周囲の上流社会に一つのメッセージを伝えようとしていた。両家がまもなく縁組するということを。

ベイカー荘は異常なほど忙しくなり、馬丁たちもタバコを吸う暇がなくなった。彼らは外から薪を満載した荷車を引き戻し、舞踏会の時に暖炉がよく燃えるようにしていた。私とローズは一日中城の外で薪を運び、煤だらけになった。

「ねえ、聞いた？フレイヤが嫁ぐ時に男の使用人を連れて行くんだって。もう決まっているのが、馬屋のローズト、台所のファーン、それにバイユーだよ」ローズはくすくす笑いながら言った。「ギャレットのじいさん、花嫁に浮気されるのが怖くないのかな？」

「ローズ、主人の是非を議論すべきじゃない」と私は注意した。

「やめろよ、トーカー、この屋敷で誰が噂してないんだ？知らないのは本人たちだけさ」ローズは階上を指差した。

私は城の上層部を見上げ、目を細めた。「もし彼らの耳、特にギャレット子爵の耳に入ったら、この結婚式はおじゃんだ。だから慎重にやろう、面倒を起こしたら大変だ」

「彼らはすぐに結婚するんだ。一度結婚してしまえば、たとえ何か気づいてももう変えられない。それにあのじいさんは目が曇ってるんだから、気づくわけないよ」ローズは皮肉っぽく言った。「バイユーのあいつは本当についている。」

「そうだな、一度結婚してしまえば、変えることなんて何もない」私は薪で刺された指を舐めた。

「お前は田舎者っぽくないな、このきめ細かい肌は」ローズは嘲笑った。「正直言って、お前には残念だ。もしロイド男爵がそんなに扱いにくくなければ、お前はもう彼の側近として王都に行けてたかもしれない。いったいどうやって彼を怒らせたんだ？」

「わからない、あの貴族様の気性を誰が推し量れるだろう」私はため息をついた。

「ロイド男爵に取り入れなくても、お前の顔なら『良い』女に取り入れるくらいできるだろう？ベリーはお前に好意を持ってたはずだ」ローズは私にウィンクした。「今回のクリスマスディナーにも招待されてるぞ、その時はチャンスを作ってやる」

私は一瞬戸惑い、躊躇いながら言った。「でもあの夜は仕事があるんだ、無断離席して大丈夫かな？」

「ローズは私に興味があるのを見て、興奮して肩を叩いた。「やっと目が覚めたな、これで苦労してキャリアを積むよりずっと役に立つ。手伝うって言ってるんだから、何を心配してるんだ？ベリーさえつかまえれば、執事なんてどうでもいい。その日はお前はお前の用事に集中しろ、残りは俺が面倒見る」

「私はとても感謝しているふりをしてローズの手を握った。「いい友達だ、ありがとう」

「クリスマスパーティーは貴族たちにとって最も重要な祝祭の一つだ。この日、郡中の大小の貴族や紳士たちが最も有名な貴族の家に招かれ、晩餐会に参加する。招待状を受け取れなかったら、それは本当に恥ずかしいことで、すぐにみんなの笑いものになる。だから、この日の雰囲気は特に厳かで荘厳だ。」

「ヨークシャーというこの小さな地域では、ロイド子爵が最も有名な貴族だ。それに、早くも噂が広まっているが、彼の家の次女フレイヤが宴で婚約を発表する予定だ。朝早くから、客が続々と到着し、貴族たちは大勢の使用人と荷物を連れ、男性たちは鞭を高く掲げ、掛け声が絶えず、女性たちは扇で顔を隠し、軽やかに笑い合った。」

「これは社交シーズン中最も重要な晩餐会で、誰もが完璧な印象を残したいと思っている。完璧でなくても、少なくとも体裁がよく尊敬されるように。だから、最も流行で華やかなドレス、最も目を引く輝く宝石、柔らかな羽飾りと香り高い扇がここに集まる。女たちは花のように美しい孔雀のように、男性の腕を組んで屋敷のあちこちを歩き回る。彼らのそばの男性は高価な杖を持ち、パイプをくわえ、目配せする女性たちを密かに観察する。ひとつの微笑み、ひとつの視線は、彼らだけが理解できる合図だ。」

「一日中、私は客たちに道案内をし、美酒と美食を提供した。最も多く言った言葉は「はい、ご主人様（お嬢様）、ご指示の通りに」。これほど多くの客を迎えられることは私にとって大きな喜びで、この賑やかさは子爵一家の名声の証だ。私は彼らのパフォーマンスを楽しみにし、すべてがうまくいき、この良い機会を無駄にしないことを願っている。」

今晚の晩餐会の主役は間違いなくギャレット子爵とその婚約者フレイヤだ。二人は手に手を取って会場に現れ、少し老けて見えたが、目と目の間には情愛が溢れ、思わず少し不快感を覚えた。私は片手にトレイを持ち、壁際のろうそくの熱で顔の半分が火照っていた。ローズがトレイを持って近づき、私の耳元で小声で言った。「おい、やつ、まだ動かないのか？」

彼は少し離れたところに目配せをした。その視線の先にはベリーの丸々とした姿が見えた。私はベリーからフレイヤへ、そしてギャレット子爵へと視線を移した。私は善人ではない。前世ですでに相応の報いを受けた。今度は、この悪党どもに復讐すると誓っている。彼らが何を望もうと、手の届かないところで見せつけ、絶望の中で運命の吝嗇を背負わせてやる。

晩餐会も中盤に差し掛かり、皆が美酒と音楽を楽しんだ後、多くの人が束縛を解き、こっそりとホールを抜け出し、暗い片隅で羽目を外し始めた。その頃、女性たちは衣装替えのために一旦戻り、少し休んでから晩餐会の後半に臨む準備をしていた。「今回は君に頼む。」私は手に持っていたトレイをローズに渡した。

ローズは理解したように頷いた。「頑張れ、ここは任せて。」遠くでは、ベリーが数人の貴婦人たちと話をしており、元気がないように見えた。彼女は私が近づくのを見つけると、扇で顔を隠し、軽く扇ぎ、少しだるそうな様子を見せた。

「お嬢様、またお会いできて光栄です。」私は腰を折って礼をした。彼女はほほ笑み、左手を差し出した。私は急いでそれを受け、彼女の指輪に軽くキスをした。

こうした正式な場で、使用人に手の甲にキスさせるのは明らかに体裁が悪い。しかし、この夫人の派手な評判を考えれば、誰も不思議に思わなかった。「あなたを覚えているわ、若いの。」ベリーは目を瞬いた。

「光栄です。ご案内いたしましょうか？」私は恭しく尋ねた。彼女は答えた。「もちろん、この屋敷の造りは実に単調で、来るたびに自分の部屋が分からなくなるの。」彼女は再び手を差し出し、私は彼女を導いてホールを出た。

私は彼女を客室などには連れて行かず、せっかちな子供のように、彼女を2階の陰鬱な片隅に引きずり込み、ふくよかな体を慌ただしく抱きしめ、待ちきれずにキスをした。彼女は私のキスで息を切らし、体がぐったりとした。

「ああ、神様、あなたは本当に無礼ね。この下品なやつ、ご主人に言いつけてやるわ。」彼女は私を押しのけようともがいた。私は片膝をつき、彼女の足をしっかりと抱きしめ、興奮しながら繰り返した。「愛しています、狂おしいほどに、どうかお許しください…自分がどれほど卑劣か分かっています。こんな高貴で美しい方に恋をするなんて、身の程知らずですが、どうしようもないんです、気が狂いそうだ！」

ベリーは息を切らし、窒息しそうだった。私は素早く立ち上がり、彼女をしっかりと抱きしめ、衣服の上から彼女に触れ、掻きむしりながら撫でた。この乱暴で力強い愛撫に、彼女はすぐに体がぐったりし、私の胸に寄りかかった。「ああ、この馬鹿者。」彼女は両手で顔を覆い、泣くまねをした。

私はそっと彼女の手を引き離し、そしてキスをした。すぐに、彼女も私にキスを返してきた。先ほどの芝居がかった抵抗は不可欠なもので、貴人たちは通常、不倫を愛情に昇華させ、あたかもこれが必須のステップであるかのようにする。彼女の唇はふっくらしていたが、キスのテクニックはかなりのものだった。

しばらくして、彼女は淡い憂いを帯びた口調で言った。「こんなこと、するべきじゃなかったわ。」その時、彼女は足元のリボンに気づき、私を押しのけて腰を折り、それを拾い上げた。彼女は自分が落としたものだと思ったが、拾い上げた途端、目を大きく見開いた。

私は知っていた、彼女がリボンの模様に気づいたことを。ヨークシャー全体で、同じ模様のドレスは見つからないし、このリボンは下着に結ぶものだ。誰が下着のものをここに置いておくだろうか？

「誰がここに落としたの？」ベリーは模様をじっと見つめ、考え込んでいるようだった。この柄はロイド家のフレイヤが着ていたのを見たことがあるような気がした。

「あっ……これは！」私は急いで口を押さえ、秘密を隠せない馬鹿な子供のようだった。

ベリーはリボンを自分の指に巻きつけた。「どうしたの？ これが誰のものか知ってる？」

「私……知りません……」私は慌てて頭を下げ、心がざわついた。

「あなたが私をここに連れてきたのは、前に他の人も連れてきたから？ 当ててみよう、この家の次女……フレイヤでしょ！」ベリーは語気を強め、態度が攻撃的になった。

「違います！ いいえ！ 私はあなただけを愛しています、他の人を連れてきたことなんてありません、これはバイユーがお嬢様と……」私は慌てて言葉を止めた。

「あら、まあ！」ベリーは興奮した表情を見せた。

「お願いです、夫人、何も言わないでください！ お嬢様はもうすぐ婚約します、こんな時に噂があっては困ります、私はここでまっとうに働きたいのです」私は青ざめながら懇願した。

「馬鹿な子、私が何を言うというの？ 今日ここでは何も起こらなかった、私たちは会ってもいないの、そうでしょ？」ベリーはつま先立ちで私の顎に軽くキスした。「あなたはいい子ね、また後で、私は着替えに行くわ」