第29章

酷暑が耐え難く、朝の風は土の醗酵した匂いを運び、うつらうつらさせる。こんな天気でも、男爵はいつものように早起きして馬に乗り、彼の姿を見て、私は少し安堵した。

子爵一家はどうやら去る気配がなく、一日中城に閉じこもり、強い日差しが彼らが自慢の蒼白な肌を傷つけるのを恐れている。貴族たちは極端な白さを尊び、女性たちは外出時には必ず日傘を差し、男性たちはサンバイザーをかぶり、日焼け止めを徹底していた。

今日、子爵夫人は王都から仕立て屋を呼び寄せ、二人の令嬢のために新しい服を作らせた。「各種の生地を使って、最新のデザインで作ってください。」子爵夫人は笑みを浮かべ、「勘定はすべて男爵の方につけましょう、彼が妹たちに何着か服を贈ると言っていましたから」

夫とは大違いで、子爵夫人は処世術に長けており、気まずい状況でも他人の贈り物を平然と受け入れる。フレイヤはこれに不満で、ぶつぶつ言った。「服を何着か送ってくるだけで私たちを追い払おうというのか？」

子爵夫人は鋭い視線を投げかけ、その目は刃のようだった。幸い賢いローレンがいて、彼女は唇を開き、緊張を解いた。「男爵様は公務でお忙しく、私たちと過ごす時間がありませんが、彼の贈り物に感謝すべきです」

フレイヤは冷ややかに笑い、遠慮なく使用人たちに生地を広げさせ、体に当ててみて、男爵の贈り物を楽しみ、当然のごとく振る舞った。

「トーカー、顔色が悪いわ。病気なの？」ローレンは突然私に目を向けた。

「いいえ、お嬢様、ただ昨夜よく眠れなかっただけです。」私は急いで答えた。

「天気が暑くて、多くの人が熱病にかかっているから、気をつけてね。もし気分が悪かったら、必ず私に言ってね。」彼女は優しい口調で、まるで使用人を気遣う良い主人のようだった。

私は感謝の気持ちを込めて答えた。「ご心配いただきありがとうございます。気をつけます。」

ローレンは甘い笑みを浮かべた：「私のところに本が何冊かあるから、字を覚えるのに役立つわ。分からないところがあったら、遠慮なく聞いてね。」

私は恐縮しながら、軽く会釈した。「本当にありがとうございます。」

「お役に立てて、私も嬉しいわ。」ローレンは優しく言った。

この数日、私とローレンの関係はますます親密になっていた。私たちはよく庭園で「偶然出会い」、楽しく語り合った。公の場でさえ、彼女は気遣いの言葉をかけてくれた。日常の些細なことから国家の大事まで、ローレンはいつも生き生きと語り、聞く者を心地よくさせた。

そんな喜びに浸っていると、廊下に聞き覚えのある足音が響き、私は一気に神経を尖らせた。足音が近づくにつれ、体はますます硬直し、昨夜の光景が脳裏に鮮明によみがえり、逃げ出したい衝動に駆られた。

男爵が馬で帰宅すると、子爵夫人は熱烈に迎えた：「オースティン、早く見て、これはフランスから来た新作よ、王都で流行しているそうよ。」

それは濃色の男性用礼服で、伝統的な前立てを廃し、シンプルなデザインで、後ろ裾がスリットになっていて、丸型の黒い山高帽と組み合わせていた。船型帽子の形状は残していたが、縁とカーブはより控えめになっていた。これは最近の流行で、男性たちは華美さを追求せず、シンプルで上品な装いを好むようになり、多くの人がかつらも着用しなくなっていた。

最近付き人の私としては、進み出て礼服を捧げ、男爵に見てもらわねばならなかった。

今この瞬間まで、私は彼の目を直視できず、まるでゼンマイ仕掛けの人形のようにぎこちない動きをしていた。

「とても素敵だ。」男爵は低い声で言い、少し間を置いて続けた。「叔母様と妹たちが気に入ったものを、遠慮なく選ぶがよい。」

「まあ、ありがとう、オースティン。」子爵夫人は二人の娘に向き直った。「早く兄様にお礼を言いなさい。」

ローレンとフレイヤは急いで男爵にお辞儀をした、その姿は従順で謙虚だった。

私は平静を装って衣類を整えていたが、心は完全に男爵に向いており、胸が激しく鼓動し、今にも飛び出しそうだった。昨日の出来事はまだ未解決のままで、私の感情は長く乱れたままだった。

ついに、私は勇気を振り絞って男爵を一瞥した。ちょうどその時、彼も私を見ており、視線が交わった瞬間、私の顔は沸騰したお湯のように熱くなり、全身がその場に凍りついた。ほんの数秒後、男爵は視線を外し、階段に向かいながら命じた：「カーンに採寸をさせよ」

彼は保安官を呼びもせず、私を追い出すこともなく、ましてや子爵に私の所業を告げることもなかった。私は緊張しながら彼の去りゆく背中を見つめ、駆け寄って聞きたい衝動に駆られた。「いったい私にどんな判決を下したのか、と」。

正午を過ぎると、天気はますます暑くなり、城の中さえも息苦しいほどだった。ガラス窓から差し込む陽光で、室内は蒸し風呂のよう。男僕として、私たちはかつらをかぶり、外套を着なければならなかった。紳士たちの服装が比較的簡素になっている一方で、使用人の装いはますます派手になり、中には奇怪な道化師のような格好をさせられている家もあった。

幸い男爵にはそのような趣味はなかったが、執事は私たちに完璧な身だしなみを要求した。そのため、この酷暑の中、私たちは厚手の上着を着て、かつらと手袋をはめ、汗びっしょりになっても我慢しなければならなかった。

昨夜は寝つけず、昼間も広間で蒸されていたため、私の視界はすぐにぼやけ始めた。昼食時、私はほとんど持ちこたえられず、執事に休みたいと伝えようとしたその時、男爵が階上から降りてきた。彼は私を一瞥するや、大股で私の前に進み出ると、焦りのこもった口調で言った。

「どうした？ もしかして……私……」彼は心配そうに尋ねた。

私は頭を振り、よろめいた。男爵は急いで私を支え、「医者を呼べ、彼を二階に連れて行け」と叫んだ。熱で気を失ったとは言いづらく、男の前でこんなに弱々しいのはみっともないと思った。

「大丈夫です、医者は呼ばなくていい」私は分厚いかつらを外し、襟元を引っ張って言った。「ただ、暑すぎて」男爵も気づいていた。私の襟はすでにびしょ濡れだった。

彼はしばらく黙り、困ったように思えた。私は頭を垂れ、自分の弱さを恥じた。他の誰も熱で倒れていないのに、しかも重労働もしていないというのに。

「本当に大丈夫か？」男爵は再び尋ねた。「気分が悪いなら、医者に連れて行ってやれる」この言葉に、私も周りの使用人も驚いた。男爵が自ら病気の使用人を医者に連れて行く？ 予想外だった。

自分の言葉が適切でなかったと気づき、男爵は数秒ためらってから付け加えた。「今日の午後、王都に行く予定だ。ついでに君を連れて行ってもいい」私は首を振り、「お心遣いありがとうございます。大丈夫です、ただ暑さでぼーっとしただけです」と答えた。

「そうか」男爵はうなずき、ホジソンに命じた。「暑いから、客がいない時は服装にうるさくするな」男爵はいつも使用人の健康を気にかけており、こんな指示も驚くことではなかった。

すると、カーンが好奇心に駆られて尋ねた。「旦那様、今日の午後は商人たちと約束がありますが、取り消しますか？」男爵は少し間を置き、「ああ、取り消しだ。明日に延期しよう」と答えた。

こうして男爵は炎天下、蒸し暑い馬車で王都に向かった。帰ってきた時、彼の顔は不機嫌そうだった。

私が正門で待っているのを見て、私たちの視線が再び合った。彼は一瞬足を止め、それからまっすぐに城の大広間へと入っていった。

彼はもう私を追い出さないだろう。私の目的は達成されたようだ。

夏の夜はうだるように暑く、マイルズ荘には宴会も歌や踊りもなく、主人たちは早々に休んだ。使用人たちはまだ使用人部屋で忙しく、女中たちは刺繍をし、男僕は主人の靴や服の裾の汚れを拭いていた。私は灯りの下で本を読み、ローズが話しかけてきたが、適当にあしらって相手にしなかった。

子爵一家の使用人は全員解雇され、ローズもすぐに解雇されたが、彼はすぐにマイルズ荘の使用人になった。その理由は言うまでもない。彼が私を売った行為を責めるつもりはないが、これ以上付き合う気もなかった。

その時、壁のベルが突然鳴り響いた。男爵の寝室からの呼び出しだ。使用人に私生活は許されず、24時間のうち16時間はいつでも呼び出しに応じられるよう待機し、起きている時間のほとんどを主人のために費やすため、結婚する者はほとんどいない。女中は結婚すら許されず、結婚すれば家庭の世話に時間を取られ、見知らぬ男を屋敷に入れる可能性もあり、安全ではないからだ。しかし、「オースティン」は寛大な主人で、彼の屋敷では結婚した使用人も時々休暇を取れた。どうやら今夜、「カーン」は家に帰ったらしい。

もうすぐ9時になる。男爵はもう寝たかと思っていた。こんな夜遅くに彼に会うことになり、私は胸が高鳴った。しばらく躊躇し、ホジソンが不満そうな視線を投げかけてきたので、急いで立ち上がり男爵の寝室へ走った。

男爵はまだきちんとした服装でソファに座っており、傍らのワイングラスは空になっていた。私を見ると、彼も緊張しているようで、慌てて組んだ足を組み替え、ソファに置いた手を拳に握りしめた。

昨夜あんなことがあったのだから、起こったことは起こったが、互いに一言も話していない。彼は会うのも気まずがるかと思ったが、まさか直接寝室に呼びつけるとは。